2型糖尿病患者の食事・運動指導の効果を上げるのに有効な行動変容のテクニックとは?

ダンベルと野菜 栄養指導

本記事は、栄養疫学分野の一研究者が興味を持ったテーマについて、学術論文をベースに自身の見解も交えて分かりやすく紹介することを目的としています。正確な情報発信を心がけていますが、栄養疫学はとても奥が深く、ひとりの研究者では全容を理解することが難しい側面があります。執筆者の知識不足や誤解から生じる誤りもあるかもしれません。したがって、本記事の内容だけをもとにして結論を急いだり、すぐに食べ方を変えたりすることはお勧めしません。

管理栄養士だけでなく、パーソナルトレーナーなど様々な方が、一般の人々や患者さんに対し食事や運動に関するアドバイスをする機会があると思います。しかし、どんな指導方法が効果的なのでしょうか?そこで今回は、2型糖尿病患者に対する食事・運動指導に関する論文を例に、

・食事・運動指導には効果があるのか?
・効果的な指導をするためのポイントは?

という点についてみていきたいと思います。

今回の記事のわたしなりの結論はこうです。「食事と運動療法に関する比較的短期間(6カ月以内)の指導は、HbA1cの改善と体重の減少に対して効果がありそうです。より効果的な指導を行うには、どのように行動を変えたらいいかを口頭で説明したり実例を示したりして、具体的な行動の計画を立てるように勧めることが有効かもしれません」

1.どんなことを調べた研究?

今回ご紹介するのは2017年に発表された「2型糖尿病における食事と身体活動の両方をターゲットにした行動変容技法:システマティックレビューとメタアナリシス」という論文です(文献1)。この研究では、1975~2015年に発表された13の英語論文を集めて、研究の結果を統合し、指導の効果を調べました。

このメタアナリシスで統合したのは以下のような研究です。まず、18歳以上の2型糖尿病患者を、食事と運動両方への指導を行うグループ(介入群)と、通常のケアを行うグループ(対照群)にランダムに分けました。そして、指導の前後で

HbA1c(過去1~2カ月の血糖値の指標)
体重

のそれぞれに、グループ間でどれくらい差があるかを調べました。

介入群ではどのような指導を行ったのでしょうか?食事指導では、13の研究のうち10の研究でエネルギー制限の指導をしていました。それに加えて、二つの研究では低脂肪について、 二つの研究では低炭水化物について、ひとつの研究では低GI(Glycemic Index, 血糖値の上がりやすさの指標)についても焦点をあてていました。一方、運動指導では、すべての研究が中程度の強度の有酸素運動の指導をしていたのに加え、筋力トレーニングの指導をしていたものが三つありました。

2.食事・運動指導の効果は?

以下の図は、13の研究における食事と運動の指導によるHbA1cの減少効果を示したグラフです。どの時点でみても、介入群で有意にHbA1cが減少し、全体として食事と運動の指導はHbA1cを0.53%減らす効果があることがわかりました。ただし、この論文では、先行研究(文献2,3)に基づいて「HbA1cが0.3%よりも減少した場合が臨床的に有意な減少である」と定義づけているため、「食事と運動の指導は3か月と6カ月の時点では臨床的にHbA1cが減少するものの、12カ月と24カ月ではそうではなかった」と結論づけています。

青いバーと数値は介入群と対照群のHbA1cの差の平均値、エラーバーは95%信頼区間を示しています。

また、体重に関しても、3か月と6カ月の時点で同様に減少効果がみられました。12カ月、24カ月時点では介入群と対照群で有意差がみられなかったのですが、全体としては体重を3.7kg減らす効果が確認されました。

青いバーと数値は介入群と対照群のHbA1cの差の平均値、エラーバーは95%信頼区間を示しています。

これらの結果をみると、食事と運動療法への比較的短期間(6カ月以内)の指導は、HbA1cの改善と体重の減少に対して効果があるといえそうです。

3.  血糖コントロールの改善に関連した行動変容のテクニックは?

ところで、食事と運動の指導は効果的だったとはいえ、具体的にはどんな指導が血糖値を改善するのに効果だったのでしょうか。どんな食事をとったらよいかお話ししたのでしょうか?それとも、対象者を叱咤激励したのでしょうか?そのような疑問に答えるため、この研究ではさらに「血糖値の改善と関連がみられたbehavioural change techniques(BCT)は何か?」ということを調べています。

BCTは日本語では行動変容技法で、ごく簡単にいうと、「人の行動を変えるためのテクニック」です。

先ほどのメタアナリシスでは、介入群と対照群の食事と運動の指導内容をそれぞれ、Michieらが開発したBCTの分類法を用いてコーディングを行いました(文献4)。Michieらの分類には、16のカテゴリーからなる93のBCTがあります。BCTの分類法の便利な点は、別々の研究の異なる指導で使った行動変容技法を、一貫して分類したり報告したりできるところです。ちなみにMichieらの分類は、食事や運動に関する指導だけでなく、禁煙や性感染症に関する介入研究でも使用されています。

メタアナリシスに含めた各研究をみると、ひとつの研究のなかで使われたBCTの数は5~42、平均で13.5でした。全体で使われていたBCTの種類はぜんぶで46ありましたが、そのうち臨床的に有意なHbA1cの減少(-0.3~0.5%)と関連していたものは四つありました。以下にご紹介します。元論文を検索しやすいように、Michieらの分類の番号と元の英語も載せておきます。

① 行動の実行方法の指導(4.1 Instruction on how to perform a behavior)

この技法は、「どのように行動を実行に移すかについて助言または同意すること」です。具体的には以下のような指導を指します。

  • 管理栄養士による適切な食事管理に関する指導(食事管理の目標、食品交換表の使用、外食や間食など)
  • 人体のエネルギー代謝、食品のエネルギー含有量、運動によるエネルギー消費、炭水化物のGIの重要性に関する指導
  • 運動器具と運動方法に関する写真と説明が載った本の提供(エクササイズの回数の目安、上達の方法を含む)
  • 医師による、効果的なトレーニングに関する印刷物を用いた説明

通常行う栄養指導の内容はこれに分類されそうですね。行動に移すためのアドバイスをすることは大切といえそうです。

Physiotherapy, Weight Training, Dumbbells

② 行動のデモンストレーション (6.1 demonstration of the behavior)

③ 行動の練習/リハーサル (8.1 behavioral practice/rehearsal)

これら二つはよく似ているのでまとめてご紹介します。「行動のデモンストレーション」は、指導の対象者本人が憧れたり真似したりするように、直接、または映画や写真などを用いて間接的に、行動に関する観察可能な実例や見本を提供することです。一方、「行動の練習/リハーサル」は、習慣化したりスキルを上げたりするために、実際に行動しなくてもよい状況や時間帯に、1回以上の練習やリハーサルを行うよう促すことです。たとえば以下のような指導があります。

  • 運動教室や料理教室に参加する
  • 中強度の有酸素運動とレジスタンストレーニングを組み合わせたジムでのトレーニングセッションを週2回(各1時間)実施する
Fitness, Dumbbell, Step, Weight Training, Course

このメタアナリシスでは、対象者が運動教室や料理教室への参加をするような指導は、「行動の実行方法の指導」「行動のデモンストレーション」「行動の練習/リハーサル」のすべてに分類されました。このメタアナリシスの著者らは、「これら三つのBCTはそれぞれ別々に機能するのかもしれないが、三つのBCTが存在することで相乗的に機能する可能性がより高い」と考察しています。

④ 行動計画 (1.4 action planning)

これは「行動の実行に関する詳細な計画を立てることを促す」という技法です。計画の例としては以下のようなものがあります。

  • 毎日120分歩く
  • 脈拍を120/分以下に保ち、会話ができる程度のゆっくりとした運動を行う
  • 1日のエネルギー摂取量を1200kcalまでにする
  • 1日のエネルギー摂取量を500kcal減らす
  • スーパーで食品を買うときは、エネルギー密度、脂肪含有量、GIの低い食品を選ぶようにする

これらの例のように、行動計画の中に、行動をする状況、頻度、継続時間、強度のうち少なくともひとつを含むようにすることが重要です。

これらの四つをまとめると、「どのように行動を変えたらいいか口頭で説明したり実例を示したりし、具体的な行動の計画を立てるように勧めること」が2型糖尿病患者の血糖コントロールの改善に対する食事・運動指導の効果を上げるために効果的かもしれません。

Tape, Diet, Notes, Pen, Fat, Weight Loss, Healthy

これらのBCTとHbA1cの改善とは「関連がみられた」だけであり、因果関係(BCTを使ったことによってHbA1cが変化したかどうか)は結論付けることができません。このメタアナリシスでの検討はあくまで探索的ではありますが、こうした研究を重ねることで効果的な栄養・運動指導のテクニックが明らかになっていくと考えられます。また、指導者自身の見識や経験だけでなく、こうした理論や技術に基づいた指導のテクニックを知り、実践することで、より効果的な指導が行えるかもしれません

【おまけ】食事・運動指導における「通常のケア」とは?

ところで今回紹介したメタアナリシスでは、 「食事と運動両方への指導を行ったグループ」と 「通常のケアを受けたグループ」を比べていました。しかし、この「通常のケア」とはいったい何なのでしょうか?メタアナリシスの論文のなかでも詳しく記述されていませんでした。いくつかの元の論文をたどってみると、以下のような記述がありました。

  • 対照群は、通常の医療を継続し、研究期間の開始時に食事カウンセリングを1回受けた。参加者は、3か月ごとの定期的な病院での診察の際に、医師からガイドラインに従うことと、身体活動を増やすことを求められた。(文献5)
  • 通常の治療に無作為に振り分けられた患者は、一般開業医およびプリンセス・アレクサンドラ病院の糖尿病クリニックで標準的な医療アドバイスを受けた(文献6)
  • 通常のケアでは、ランダム化後および試験終了時に、標準的な食事と運動のアドバイスを行い、ベースライン時、6ヶ月後、12ヶ月後に、医師と看護師によるレビューを行った。(文献7)

こうしてみると、一口に「通常のケア」とはいっても、なんらかのアドバイスを受けているものもありますし、その指導内容や頻度、指導を行う職種にも違いがありそうです。グループ間を比べて指導の効果を調べるからには「何と比較しているのか」を明確にすることは重要ですが、様々な指導が「通常のケア」という一言で簡単にまとめられていることで、何の差を調べているのかが見えにくくなっている部分はあるのかもしれません。

管理栄養士としての個人的な経験から言っても、栄養指導で話す内容や関わり方は、管理栄養士や対象者によってかなり個人差があるように思います。食事・運動指導のような行動変容の研究というのは、働きかける行為自体も、その結果の評価も基本的には「人の行動」ですから、実験として厳密に条件をコントロールするというのはとても難しく奥が深そうですね。今後もいろいろな論文を読んで勉強する必要がありそうです。

まとめ

今回は、2型糖尿病患者に対する食事・運動指導に関する論文を例に、食事・運動指導の効果と、効果的な指導をするためのポイントをみていきました。13の英語論文をまとめたメタアナリシスの結果からは、食事と運動療法に関する比較的短期間(6カ月以内)の指導は、HbA1cの改善と体重の減少に対して効果がありそうです。より効果的な指導を行うには、どのように行動を変えたらいいかを口頭で説明したり実例を示したりして、具体的な行動の計画を立てるように勧めることが有効かもしれません。

以上、篠崎が『2型糖尿病患者の食事・運動指導の効果を上げるのに有効な行動変容のテクニックとは?』についてお届けしました。最後まで読んでくださりどうもありがとうございました。もっと栄養疫学を知りたい方は、ぜひ下の引用文献を辿っていってその奥深さを体験してください。

参考文献(PubMed等へのリンクあり) 

1. Cradock KA, ÓLaighin G, Finucane FM, Gainforth HL, Quinlan LR, Ginis KAM. Behaviour change techniques targeting both diet and physical activity in type 2 diabetes: A systematic review and meta-analysis. Int J Behav Nutr Phys Act. 2017;14:18.

2. Dasgupta K, Hajna S, Joseph L, Da Costa D, Christopoulos S, Gougeon R. Effects of meal preparation training on body weight, glycemia, and blood pressure: Results of a phase 2 trial in type 2 diabetes. Int J Behav Nutr Phys Act. 2012;9:125.

3. Avery L, Flynn D, Van Wersch A, Sniehotta FF, Trenell MI. Changing physical activity behavior in type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis of behavioral interventions. Diabetes Care. 2012;35:2681–9.

4. Michie S, Richardson M, Johnston M, Abraham C, Francis J, Hardeman W, et al. The behavior change technique taxonomy (v1) of 93 hierarchically clustered techniques: Building an international consensus for the reporting of behavior change interventions. Ann Behav Med. 2013;46:81–95.

5. Kim SH, Lee SJ, Kang ES, Kang S, Hur KY, Lee HJ, et al. Effects of lifestyle modification on metabolic parameters and carotid intima-media thickness in patients with type 2 diabetes mellitus. Metabolism. 2006;55:1053–9.

6. Schultz MG, Hordern MD, Leano R, Coombes JS, Marwick TH, Sharman JE. Lifestyle change diminishes a hypertensive response to exercise in type 2 diabetes. Med Sci Sports Exerc. 2011;43:764–9.

7. Andrews R, Cooper AR, Montgomery AA, Norcross AJ, Peters TJ, Sharp DJ, et al. Diet or diet plus physical activity versus usual care in patients with newly diagnosed type 2 diabetes: The Early ACTID randomised controlled trial. Lancet. 2011;378:129–39.

この記事を書いた人
篠崎 奈々

日本食品衛生学会 リサーチ・レジデント。東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻 社会予防疫学分野 客員研究員。博士(保健学)。管理栄養士。栄養疫学研究の修行中です。特に好きな食べものは豆、パン、さつまいも。趣味は登山、キャンプ、カポエイラ。

新着記事をお知らせします。フォローをお願いします
栄養指導
新着記事をお知らせします。フォローをお願いします
栄養を科学するブログ

コメント

タイトルとURLをコピーしました