運動とBCAA(前編): BCAAは筋肉の損傷や筋肉痛を防ぐ?

筋肉隆々の男性 スポーツ栄養

わたしの趣味は登山なのですが、よく登山用品店の店員さんや登山仲間からBCAAを勧められます。運動の前後にBCAAを飲むと疲れがとれるとか筋肉の回復が早まるといったイメージがありますが、実際どうなのでしょうか。

そこで今回は、運動におけるBCAAの効果について調べてみました。長くなったので前編と後編に分けてお送りします。前編では「BCAAは筋肉の損傷や筋肉痛を防ぐ?」、後編では「BCAAは筋肥大や筋力アップに効く?」という疑問について論文を調べてみました。前編のわたしなりの結論はこうです。「BCAAは運動後24時間の時点で筋損傷の指標を改善する可能性がありますが、その改善度合いが十分大きなものなのかどうかはなんともいえません。筋肉痛に対する効果については研究により結果が分かれていて、現時点でははっきりしません。」

1.そもそもBCAAってなに?

BCAAとは、バリン、ロイシン、イソロイシンという3種類のアミノ酸の総称です(文献1)。これらは枝分かれする構造をしているため、分岐鎖アミノ酸(Branched-Chain Amino Acids: BCAA)とよばれます。BCAAは体内で産生することができないため、食事から摂取する必要がある、必須アミノ酸です( 文献2)。他の必須アミノ酸は肝臓で異化(分解)されますが、BCAAは筋肉で異化されます(文献3)。BCAAは筋肉中に豊富に含まれています(文献3)。

BCAAというとサプリメントや飲み物に含まれているようなイメージがありますが、BCAAはアミノ酸、つまりたんぱく質の構成要素ですので、食品のなかにももちろん含まれています。2013年に発表された岐阜県高山市の13,525人の住人を対象とした研究によると、日本人は通常の食事では主に穀類・芋類、魚介類、肉からBCAAを摂取していることがわかっています(文献4)。

2.BCAAにはどんな働きがあるのといわれているの?

BCAA、なかでもロイシンには以下のような働きがあると言われています(文献5–8)。

  • たんぱく質合成の基質となる
  • たんぱく質の分解を抑える
  • たんぱく質の合成を促進する
  • エネルギー源となる

激しい運動をすると、運動誘発性筋損傷(exercise induced muscle damage: EIMD)と呼ばれる、筋肉が傷ついた状態になります。筋損傷は、筋力の低下、筋肉痛、筋肉の硬直や腫れなどが引き起こします(文献8)。これらの症状はその後の運動パフォーマンスを下げることから、筋組織の修復プロセスを促進したり、筋損傷による症状を緩和したりする目的でBCAAがサプリメントとしてよく使われます(文献3,8)。

3.BCAA補給の筋損傷に対する効果はどうやって調べるの?

このようなメカニズムの説明を読むと、BCAAをとると筋肉によさそうだな、と早々に結論を下してしまいたくなりますが、メカニズムがあること」と「実際に人間において効果があること」はまた別のお話です。そこで、ここからは人を対象とした疫学研究の結果をみていきましょう。

ここからは2017~21年の間に発表されたBCAA補給の筋損傷に対する効果を調べたメタアナリシス(複数の研究の結果を統合して解析したもの)をご紹介します。これらのメタアナリシスが統合した研究は、対象者に運動をしてもらい、BCAAを補給した群と補給しなかった群で筋損傷の程度を比較した介入研究です。各メタアナリシスの特徴は以下の通りです(文献1,8,9)。

メタアナリシスの特徴
*全期間の総摂取量。RCT:ランダム化比較試験

これらの研究で、筋損傷の指標として測られた主な指標は以下の通りです。

① LDH(乳酸脱水素酵素)
② CK(クレアチニンキナーゼ)
③ 遅発性筋肉痛(Delayed Onset Muscle Soreness:DOMS)の程度

筋損傷を直接的に調べるには筋生検やMRI検査が必要ですが、現実には難しいため、別の代替的な指標がよく用いられます。①②は、筋細胞が傷つくと血液中に放出されて血中濃度が上がる酵素で、筋損傷の間接的な指標として広く研究で用いられています(文献10)。LDHは運動直後から上昇するのに対し、CKは運動後24時間後から96時間後の間にピークを迎えます(文献8)。また、③は、慣れない運動をしたあとに遅れて起こる筋肉の疼痛、いわゆる筋肉痛で、痛みの程度が対象者によって主観的に評価されます。これらの指標を運動後直後、24時間、48時間など、運動してからの経過時間ごとに測定して評価する方法がよく行われています。次のセクションから、BCAA補給の各指標に対する効果を調べた結果を確認してみましょう。

4.BCAA補給によりLDHの上昇は抑えられるか?

以下の表は、各メタアナリシスにおけるBCAA補給のLDH上昇抑制に対する効果を簡単にまとめたものです。BCAAを補給した群としなかった群でLDHに有意差(統計的に十分な差)があった場合に〇、差がなかった場合に×としています。どの研究でも、BCAAを補給したことによってLDHの上昇を抑える効果はみられなかったようです2019年に発表された、31のRCT(ランダム化比較試験)をまとめた別のメタアナリシス(ただし、時点ごとの解析をしていないもの)でも同様の結果が確認されています(文献11)。

LDH
〇→BCAA補給群に有意な効果あり。×→効果なし。- →調べていない

5.BCAA補給によりCKの上昇は抑えられるか?

次に、BCAA補給のCK 上昇抑制に対する効果をみてみましょう。測定時点ごとの結果は各研究で異なりますが、少なくとも運動後24時間の時点では、BCAAをした群のほうがしなかった群に比べて有意にCKの上昇が抑えられたようです。31のRCTをまとめた別のメタアナリシスでも、時点ごとの解析はしていませんが、BCAA補給によってCKの上昇が抑えられたことが確認されています(文献11)。

CK
〇→BCAA補給群に有意な効果あり。×→効果なし。- →調べていない

BCAAの補給によりどれくらいCKが下がったのか、すなわち、各メタアナリシスにおける運動後24時間時点の介入群(BCAAを補給した群)と対照群(そうでない群)とのCKの平均値の差を並べてみると以下の通りです。

どのメタアナリシスでも、BCAAを補給したことによりCKの上昇が平均130~151 IU/L抑えられるということがわかりました。でも、この値は大きいのでしょうか、小さいのでしょうか?CKは安静時には60~400 IU/L程度で、運動時には300~6000 IU/Lまで上がるようです(文献12)。どちらの値にもかなり幅がありますよね。CKの値は人種や性別によって大きく異なり、その上がり方も遺伝的体質や体組成、運動の内容や強度によってかなり差があります(文献12)。というわけで、BCAAを補給することによりCKの上昇は数値としては抑えられそうだ、ということは理解できましたが、その程度が十分大きいのかどうかは判断がつきませんでした

6.BCAA補給により筋肉痛は抑えられるか?

次に、BCAAを補給したことにより筋肉痛が抑えられたかどうかをみてみましょう。

筋肉痛
〇→BCAA補給群に有意な効果あり。×→効果なし。- →調べていない

上の表をみると、24~72時間までのすべての時点で効果があったとする研究もあれば、96時間まですべて効果がなかったとする研究もありますね。BCAA補給により筋肉痛の軽減効果があるかどうかは、メタアナリシスによって、また評価時点によっても結果が異なるようです

7.結局、BCAAと筋損傷の関係は?

これらの結果を簡単にまとめるならば、「BCAAを補給することによって、LDHの上昇は抑えられそうにないが、CKの上昇は抑えられるかもしれない。筋肉痛については一貫した結果が得られていない」ということになります。運動による筋損傷の初期に反応するLDHの上昇は抑えられないものの、次いで上昇するCKの上昇は抑えられるということから、この結果についてKhemtongらは「BCAAは筋肉の損傷を防ぐことはできないが、細胞の再生を活性化することで炎症の解消を促進することを示唆している。」と結論付けています(文献8)。筋肉痛については、そもそも筋肉痛が起こるメカニズムがわかっておらず(文献9)、BCAAが筋肉痛に及ぼす効果のメカニズムもまだ解明されていないようです(文献1,8)。

筋トレする女性

前編の結論としては「BCAAは運動後24時間の時点で筋損傷の指標を改善する可能性がありますが、その改善度合いが十分大きなものなのかどうかはなんともいえません。筋肉痛に対する効果については研究により結果が分かれていて、現時点でははっきりしません。」というところです。なんとも歯切れの悪い結論と思うかもしれませんが、人間栄養学の研究ではこのように一貫した結果がみられないことはたくさんあります。

メタアナリシスは複数の研究の結果を統合するため、科学的根拠の質も高いと考えられていますが、個々の研究の限界や方法のばらつきに結果が左右されます。最初に示した各メタアナリシスの特徴の表からわかるように、まとめた研究の数や各研究に含まれる対象者の人数が少ないという限界があります。さらに、BCAAの投与量や摂取期間も異なりますし、BCAAの比率や摂取のタイミング、製造業者の違いによっても結果に差が生じる可能性があります(文献1,8,11)。このような個々の研究の差を考えると、一貫した結果がみられないのもしょうがないのかもしれませんね。

次回、「BCAAは筋肥大や筋力アップには効果があるのか?」

BCAAと筋損傷の関係はなんとなくわかったのですが、「筋繊維がちぎれまくって筋肉痛がきても、結果的に筋肉が大きくなったり強くなったりするならいいんじゃない?」と思う方もいらっしゃるかもしれません(少なくともわたしはそう思いました)。そこで次回は、BCAAは筋肥大や筋力アップには効果があるのかどうかを調べてみたいと思います

運動と食事について興味がある方、日頃プロテインのサプリメントや卵などたんぱく質の摂取を心がけている方は以下の記事も読んでみてくださいね。

参考文献

1. Rahimi MH, Shab-Bidar S, Mollahosseini M, Djafarian K. Branched-chain amino acid supplementation and exercise-induced muscle damage in exercise recovery: a meta-analysis of randomized clinical trials. Nutrition. 2017;42:30–6.

2. Wolfe RR. Branched-chain amino acids and muscle protein synthesis in humans: myth or reality? J Int Soc Sports Nutr. 2017;14(1):1–7.

3. Fouré A, Bendahan D. Is branched-chain amino acids supplementation an efficient nutritional strategy to alleviate skeletal muscle damage? a systematic review. Nutrients. 2017;9(10):1–15.

4. Nagata C, Nakamura K, Wada K, Tsuji M, Tamai Y, Kawachi T. Branched-chain amino acid intake and the risk of diabetes in a Japanese community. Am J Epidemiol. 2013;178(8):1226–32.

5. Bianchi G, Marzocchi R, Agostini F, Marchesini G. Update on nutritional supplementation with branched-chain amino acids. Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2005;8(1):83–7.

6. Holeček M. Branched-chain amino acids in health and disease: metabolism, alterations in blood plasma, and as supplements. Nutr Metab. 2018;15(1):1–12.

7. Shimomura Y, Murakami T, Nakai N, Nagasaki M, Harris RA. Exercise promotes BCAA catabolism: effects of BCAA supplementation on skeletal muscle during exercise. J Nutr. 2004;134(6 SUPPL.):1583–7.

8. Khemtong C, Kuo CH, Chen CY, Jaime SJ, Condello G. Does branched-chain amino acids (BCAAs) supplementation attenuate muscle damage markers and soreness after resistance exercise in trained males? a meta-analysis of randomized controlled trials. Nutrients. 2021;13(6):1880.

9. Rahimlou M, Ramezani A, Mahdipour M, Palimi E, Moradipoodeh B. Reduction of muscle injuries and improved post-exercise recovery by branched-chain amino acid supplementation: a systematic review and meta-analysis. J Nutr Heal. 2020;8(1):1–16.

10. Clarkson PM, Hubal MJ. Exercise-induced muscle damage in humans. Am J Phys Med Rehabil. 2002;81(11 SUPPL.):S52–69.

11. Hormoznejad R, Zare Javid A, Mansoori A. Effect of BCAA supplementation on central fatigue, energy metabolism substrate and muscle damage to the exercise: a systematic review with meta-analysis. Sport Sci Health. 2019;15(2):265–79.

12. Koch AJ, Pereira R, Machado M. The creatine kinase response to resistance exercise. J Musculoskelet Neuronal Interact. 2014;14(1):68–77.

この記事を書いた人
篠崎 奈々

日本食品衛生学会 リサーチ・レジデント。東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻 社会予防疫学分野 客員研究員。博士(保健学)。管理栄養士。栄養疫学研究の修行中です。特に好きな食べものは豆、パン、さつまいも。趣味は登山、キャンプ、カポエイラ。

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