運動とBCAA(後編): BCAAは筋肥大や筋力アップに効く?補給する量と期間は?

マシントレーニングする女性の背中 スポーツ栄養

本記事は、栄養疫学分野の一研究者が興味を持ったテーマについて、学術論文をベースに自身の見解も交えて分かりやすく紹介することを目的としています。正確な情報発信を心がけていますが、栄養疫学はとても奥が深く、ひとりの研究者では全容を理解することが難しい側面があります。執筆者の知識不足や誤解から生じる誤りもあるかもしれません。したがって、本記事の内容だけをもとにして結論を急いだり、すぐに食べ方を変えたりすることはお勧めしません。

前編ではBCAAと筋肉の損傷、筋肉痛の関係について調べてみました。前編はこちら↓

後編では、BCAAは筋肥大や筋力アップには効くのかどうか、また、どれくらいの量をどれくらいの期間とるのがいいのかを調べた結果をご紹介します。後編のわたしなりの結論はこうです。「BCAAが筋肥大や筋力増強に与える影響を調べた研究の結果は一貫していません。運動後の筋肉の炎症を緩和する目的でBCAAを摂取するときの最適な量ははっきりしていませんが、数日間に渡って補給するほうがよさそうです。ただし、そもそも筋肉をつけるには、適切な運動をしつつ十分なたんぱく質の摂取を心掛けることのほうが大切です。」

1. BCAAは筋肥大や筋力アップには効果があるの?

BCAAは筋肥大や筋力アップに効くのでしょうか?2015年に発表された65歳以上の高齢者を対象とした9件のRCT(ランダム化比較試験)のメタアナリシスでは、下のグラフのように、BCAAのうちロイシンを摂取することによって筋たんぱく質の合成速度は高まる一方で、除脂肪体重(脂肪を除く筋肉や骨の重量)には変化がみられませんでした(文献1)。

文献1の図
ロイシンを摂取した群としなかった群における各指標の標準化した平均値の差と95%信頼区間。信頼区間を表す横線が0をまたいでいる場合、群間に差がないということを意味します。

その一方、同じ年に発表された高齢者を対象とした16件のRCTまたはクロスオーバー比較試験のメタアナリシスでは、ロイシンの摂取は除脂肪体重の増加に有効であったものの、握力と膝伸展力などの筋力には変化がみられませんでした(文献2)。

文献2の図
ロイシンを摂取した群としなかった群における各指標の重み付きの平均値の差と95%信頼区間。信頼区間を表す横線が0をまたいでいる場合、群間に差がないということを意味します。

これらの研究は、どちらも必ずしも運動を伴う研究に限定していませんが、ロイシンが除脂肪体重の増加に及ぼす効果については結果が食い違っていますね

筋肉量や筋力に効くといわれている様々なサプリメントに関する叙述的レビュー(※)が2019年に発表されました。このレビューではBCAAに関する複数の論文を紹介し、「BCAAは筋肥大に対する効果については結果が一貫しておらず、筋量については効果がないようである」と結論付けています(文献3)。 また、2021年に発表された叙述的レビューでも、8~12週間にわたってBCAAまたはロイシンの筋肥大と筋力に対する効果を調べた7つの介入研究(n 17~155)の結果を引用し、適切な量のたんぱく質をとる場合、BCAAやロイシンによる筋肥大や筋力増強の効果はないと結論づけられています(文献4)。

これらの研究をみると、現時点でBCAAが筋肥大や筋力アップに効くと断言することは難しそうです

※叙述的レビューとは、複数の論文をもとにして、ある研究のトピックについてまとめた論文です。あるテーマについてどのような研究があるかを知るのには便利ですが、系統的レビューやメタアナリシスのように客観的かつ体系的な文献の検索と選定を行っていないため、著者の論文の選び方や考え方、解釈の仕方に内容が影響を受けやすいという欠点もあります(文献5)。

2. 筋損傷の緩和を目的にする場合、どれくらいの量をとるのがいいの?

ところで、前回の記事で、BCAAの摂取により運動後24時間の時点でCK (クレアチニンキナーゼ。筋損傷の指標)の上昇が抑えられたという3つのメタアナリシスをご紹介しました(文献6–8)。では、そのような筋損傷の緩和をする効果を得るには、BCAAはどのくらいの量をとるのがいいのでしょうか?また、とりすぎたらいけないのでしょうか?ここで、3つのメタアナリシスにおけるBCAAの摂取量をもう一度みてみましょう。

メタアナリシスの特徴
*全期間の総摂取量 RCT:ランダム化比較試験

これを見ると、各メタアナリシスでまとめた個々の研究のBCAA摂取量にはかなりばらつきがあることがわかります。BCAAの最適な摂取量を調べた介入研究はとても少なく、BCAA補給による有益な効果を得るための最小投与量はまだ確立されていないようです(文献9)。高用量(18g/日)のほうが低用量(6g/日)よりも筋肉痛が軽減されたという研究もあれば(文献10)、低用量(210mg/kg/日)と高用量(450mg/kg/日)でCKやLDHの上昇を抑える効果に差はなかったとする研究もあります(文献11)

タブレット

2017年に発表された系統的レビューでは、筋肉の損傷程度が低〜中程度の状態で、BCAAの摂取量が多い(>200mg /kg/day以上)場合に筋損傷の緩和効果が多く観察されたと述べています(文献12)。また、運動やスポーツに関連したBCAAの毒性に関する報告はないという報告がある一方で(文献9)、若い男性においてロイシンの摂取量が500mg~550mg/kg/日を超えると健康を害する可能性があるという報告もあります(文献13,14)。

2021年に発表された系統的レビューの抄録では「高強度のレジスタンス運動の後の筋力回復と筋機能に最適な方法は、ロイシン:イソロイシン:バリンを2:1:1で配合したBCAAを2~10g摂取すること」と書かれていましたが、この論文は残念ながらインターネット上でダウンロードできず、著者に論文を送っていただけるようお願いのメールを送ってみたもののお返事もなかったので、本文まで精査できませんでした(文献15)。

3. 筋損傷の緩和を目的にする場合、 どれくらいの期間とるのがいいの?

BCAAの摂取期間に関しては、2019年に発表されたメタアナリシスでBCAAの長期摂取(4~14日)と短期摂取(1日以内)のCK上昇抑制効果を比較しています(下図)(文献16)。

BCAAの補給期間とckグラフ
点はBCAA補給群とそうでない群の重みづけ平均値の差、縦線は95%信頼区間。CK:クレアチニンキナーゼ。

このグラフでは、黒の縦線(95%信頼区間)がゼロをまたいでしまっている場合は群間に差がない、という見方をします。この結果をみると、BCAAを長期(4~14日、中央値9.5日)摂取した群では、摂取しなかった群に比べてCKの上昇が抑制されているのに対し、短期(1日以下)摂取した群ではその効果がみられなかったようです(ただし、前編の記事でもお話ししたように、CKの数値がこれくらい下がることにどれだけ意味があるかどうかについてはなんともいえません)。

腕立てする女性

2017年に発表された系統的レビューでは、BCAAの摂取頻度が高く(1日2回以上)、補給期間が長く(10日以上)、運動の少なくとも7日前にBCAAを補給した2つの研究で、筋損傷が緩和されたと報告されています(文献12)。これらをみると、筋肉の損傷を抑える効果を少しでも期待する場合には、短期よりは長期にわたって摂取したほうがよいのかもしれません

BCAAを摂取するタイミングについて、2021年に発表された系統的レビューの抄録には、「運動の3日前、運動の直前および後に摂取するのがよい」と書かれていました。全文を取得できなかったため詳細はわかりませんが、これだとほとんどいつとっても良いような印象も受けますね(文献15)。

4. 筋肉に必要なものはBCAAだけではない

ここまでBCAAが運動後の筋肉に与える影響を調べてきましたが、筋肉の構成要素である必須アミノ酸はBCAA以外にも6種類あります。また、筋たんぱく質の合成には、非必須アミノ酸も必要です。BCAAのみを摂取しても、筋たんぱく質の合成量が筋たんぱく質の分解量を上回るような状態を作り出すことは理論的に不可能です(文献17)。BCAAを魔法の粉のようにとらえてそれだけを摂取するのではなく、筋肉をつけるには、しっかりと運動し、食事からの十分なたんぱく質の摂取を心掛けることが大切といえそうです

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まとめ

2回にわたって運動とBCAAに関する記事をお送りしました。後編のわたしなりの結論はこうです。 「BCAAの筋肥大や筋力増強に関する効果を調べた研究の結果は一貫していません。運動後の筋肉の炎症を緩和する目的でBCAAを摂取するときの最適な量ははっきりしていませんが、数日間に渡って補給するほうがよさそうです。ただし、そもそも筋肉をつけるには、適切な運動をしつつ十分なたんぱく質の摂取を心掛けることのほうが大切です。」

この記事を書いて、やはり栄養のことは調べれば調べるほどわからないことだらけだと思いました。BCAAの筋損傷に対する効果を評価したくても、個別の研究の方法や個人の体質にかなり差がありますし、BCAA以外にどんな食事をとっていたのかもわからないので、研究をまとめても絶対こうであるという結論を出すことは大変難しいです。そういった研究の限界や不確かさをふまえて、「登山のときにBCAAを飲むか?」ともし私自身が聞かれたら、いつも必ず買おうとは思いませんが、お財布と気分次第で買うときもあるのかもしれない、と思いました

以上、管理栄養士の篠崎が『運動とBCAA(後編): BCAAは筋肥大や筋力アップに効く?補給する量と期間は?』をお届けしました。最後まで読んでくださりどうもありがとうございました。もっと栄養疫学を知りたい方は、ぜひ下の引用文献を辿ってその奥深さを体験してください。

参考文献

1. Xu ZR, Tan ZJ, Zhang Q, Gui QF, Yang YM. The effectiveness of leucine on muscle protein synthesis, lean body mass and leg lean mass accretion in older people: a systematic review and meta-analysis. Br J Nutr. 2015;113(1):25–34.

2. Komar B, Schwingshackl L, Hoffmann G. Effects of leucine-rich protein supplements on anthropometric parameter and muscle strength in the elderly: a systematic review and meta-analysis. J Nutr Heal Aging. 2015;19(4):437–46.

3. Valenzuela PL, Morales JS, Emanuele E, Pareja-Galeano H, Lucia A. Supplements with purported effects on muscle mass and strength. Eur J Nutr. 2019;58(8):2983–3008.

4. Plotkin DL, Delcastillo K, Van Every DW, Tipton KD, Aragon AA, Schoenfeld BJ. Isolated leucine and branched-chain amino acid supplementation for enhancing muscular strength and hypertrophy: a narrative review. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2021;31(3):292–301.

5. Pae CU. Why systematic review rather than narrative review? Psychiatry Investig. 2015;12(3):417–9.

6. Rahimi MH, Shab-Bidar S, Mollahosseini M, Djafarian K. Branched-chain amino acid supplementation and exercise-induced muscle damage in exercise recovery: a meta-analysis of randomized clinical trials. Nutrition. 2017;42:30–6.

7. Rahimlou M, Ramezani A, Mahdipour M, Palimi E, Moradipoodeh B. Reduction of muscle injuries and improved post-exercise recovery by branched-chain amino acid supplementation: a systematic review and meta-analysis. J Nutr Heal. 2020;8(1):1–16.

8. Khemtong C, Kuo CH, Chen CY, Jaime SJ, Condello G. Does branched-chain amino acids (BCAAs) supplementation attenuate muscle damage markers and soreness after resistance exercise in trained males? a meta-analysis of randomized controlled trials. Nutrients. 2021;13(6):1880.

9. Shimomura Y, Murakami T, Nakai N, Nagasaki M, Harris RA. Exercise promotes BCAA catabolism: effects of BCAA supplementation on skeletal muscle during exercise. J Nutr. 2004;134(6 SUPPL.):1583–7.

10. Dorrell HF, Gee TI. The acute effects different quantities of branched-chain amino acids have on recovery of muscle function. Sport Nutr Ther. 2016;1:115.

11. Amirsasan R, Nikookheslat S, Sari-Sarraf V, Kaveh B, Letafatkar A. The effects of two different dosages of BCAA supplementation on a serum indicators of muscle damage in wrestlers. Int J Wrestl Sci. 2014;1(2):32–6.

12. Fouré A, Bendahan D. Is branched-chain amino acids supplementation an efficient nutritional strategy to alleviate skeletal muscle damage? a systematic review. Nutrients. 2017;9(10):1047.

13. Pencharz PB, Elango R, Ball RO. Determination of the tolerable upper intake level of leucine in adult men. J Nutr. 2012;142(12):2220S-4S.

14. Pencharz PB, Elango R, Ball RO. Determination of the tolerable upper intake level of leucine in acute dietary studies in young men. Am J Clin Nutr. 2012;96(4):759–67.

15. Arroyo-Cerezo A, Cerrillo I, Ortega Á, FernÁndez-PachÓn M. Intake of branched chain amino acids favors post-exercise muscle recovery and may improve muscle function: optimal dosage regimens and consumption conditions. J Sports Med Phys Fitness. 2021;Online ahead of print. doi: 10.23736/S0022-4707.21.11843-2.

16. Hormoznejad R, Zare Javid A, Mansoori A. Effect of BCAA supplementation on central fatigue, energy metabolism substrate and muscle damage to the exercise: a systematic review with meta-analysis. Sport Sci Health. 2019;15(2):265–79.

17. Wolfe RR. Branched-chain amino acids and muscle protein synthesis in humans: myth or reality? J Int Soc Sports Nutr. 2017;14(1):1–7.

この記事を書いた人
篠崎 奈々

日本食品衛生学会 リサーチ・レジデント。東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻 社会予防疫学分野 客員研究員。博士(保健学)。管理栄養士。栄養疫学研究の修行中です。特に好きな食べものは豆、パン、さつまいも。趣味は登山、キャンプ、カポエイラ。

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