日本食はどこが優れているのか? 世界との比較から読み解く日本食の5つの特徴

日本食 食事パターン

本記事は、栄養疫学分野の一研究者が興味を持ったテーマについて、学術論文をベースに自身の見解も交えて分かりやすく紹介することを目的としています。正確な情報発信を心がけていますが、栄養疫学はとても奥が深く、ひとりの研究者では全容を理解することが難しい側面があります。執筆者の知識不足や誤解から生じる誤りもあるかもしれません。したがって、本記事の内容だけをもとにして結論を急いだり、すぐに食べ方を変えたりすることはお勧めしません。

「日本食の栄養バランスはすばらしい!」
「和食は世界に誇れる健康食だ!」

世の中には食や栄養、健康に関する情報があふれかえっています。日本食や和食についての情報も例外ではありません。でも、そもそも日本食(和食)とは何でしょうか? 健康食とは何でしょうか? 

ぼくは研究者なので、どんな情報であっても、確からしさを「その情報が科学的に作られたものであるかどうか」で判断します。そんなわけで、日本食についての科学的根拠(エビデンス)をまとめてみました。ぼくの結論はこうです。「日本食の良さは、その栄養学的内容にあるというよりもむしろその規則正しさにあるのかもしれません。」

それでは早速、そのように考える5つの科学的根拠を見ていきましょう。

日本食とは?
誰もが納得するような日本食(あるいは和食)の定義を作り出すのはとても難しく、研究レベルでも統一したものが存在しないのが現状です。ここでは「日本人が食べているもの全般」を日本食と考えてください。また、この記事では「日本食」と「日本人の食事」を同じ意味で用いています。

1. 日本人の食事の栄養学的な質はすばらしいとはいえない

日本食の栄養バランスは本当にすばらしいのでしょうか? 日本人の食事の特徴は、日本以外の人々の食事と比べてみれば分かります。世界中で行なわれた266もの食事調査のデータ(合計163万人分)を集めてきて113か国の食事を比べたところ、こんなことが明らかになりました(文献1-3)。

まず栄養素の面から見てみましょう。とりすぎると脂質異常症のリスクが高まる飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の平均の摂取量については、日本は世界と比べて少なめで、これは良い点ですね。一方で、とりすぎると高血圧のリスクを高める食塩の摂取量は世界と比べて多めで、これは良くない点です。

日本人の平均世界113か国の平均
飽和脂肪酸(カロリー%)89.4
トランス脂肪酸(カロリー%)11.4
食塩(g/日)12.410.0
カロリー%=1日合計のカロリー摂取に占める割合
文献1-2をもとに作成

次に食品の面から見てみましょう。慢性疾患予防のためにはたっぷりとりたい果物や野菜が多いのは良い点ですね。でも、同じように慢性疾患のリスクを下げるために食べておきたい全粒穀物(玄米などの精製していない穀物)の摂取量はかなり少なめで、これは良くない点です。

日本人の平均世界113か国の平均
果物(g/日)13981
野菜(g/日)305209
全粒穀物(g/日)838
文献3をもとに作成

以上より、世界の国々と比べたところ、栄養素の面でも食品の面でも、日本食には良い点もあれば良くない点もあることが分かりました。少なくとも「日本食の栄養バランスはどの観点から見てもすばらしい」と主張するのは無理がありそうです。

2. 日本人は三食をきちんと食べる

それでは、食事内容ではなくて他の側面について日本人の食事と外国人の食事を比べてみましょう。たとえば、どの国や文化圏でもたいてい朝食、昼食、夕食、いわゆる三食が存在します。ある一日に食べたものを詳しく調べることによって、1日に何回くらい食事をしているのかが分かります。さまざまな国の食事の回数をまとめたのが下の図です(文献4-6)。

食事の回数の図

日本人の食事の回数は1日あたり2.9回で、3回に最も近いですね。すなわち、欧米の国々に比べて日本人は三食をきちんと食べる傾向にあるようです。三食をきちんと食べる人は、欠食しがちな人よりも食事の内容が良いということが明らかになっているので(文献7)、三食をきちんと食べるのは望ましい習慣です。

3. 日本人は朝食をしっかり食べる

1万5千人以上の日本人の食事を詳しく調べたところ、朝食からとったカロリー(エネルギー)は1日全体の23%で、これは欧米の他の国々の平均値に比べて高めの数字でした(文献5、6、8)。朝食からのカロリーが多い人は少ない人よりも、1日に食べる野菜や果物の量が多いなど、全体的に食事の質が高いということが明らかになっています(文献9、10)。朝食に関しても、日本人は欧米の人々に比べて望ましい習慣をもっているようです。

朝食の割合の図

ちなみに、ここでいう朝食とは「朝起きて最初の、水以外の何かを飲食した場面」のことです。また、科学的に考えると、朝食はその量にかかわらず、食べたほうがよいです。詳しくは『朝食は将来の健康に対するとても安上がりな投資である:人間栄養学者が考える5つの科学的根拠』をご覧ください。

朝食は将来の健康に対するとても安上がりな投資である:人間栄養学者が考える5つの科学的根拠
「朝食を抜けばやせられる」「朝食を抜くと太りやすくなる」 世の中には食や栄養、健康に関する情報があふれかえって。朝食に関するアドバイスもそのひとつです。でも、完全に食い違うようなアドバイスに出くわして「結局のところ何を信じればいいのか分からない」...

4. 日本人の間食は控えめ

次は間食についてみてみましょう。三食と同様に、どの国・文化圏においても間食というものは存在します。でも、間食がもつ栄養学的な意味は集団によって大きく異なるようなのです。1日に何回くらい間食をするのか国別にまとめた結果、日本人の間食回数は1日あたり1.7回で、欧米諸国と比べて最も少ないことが分かりました(文献4-6)。

間食の回数の図

また、1日の摂取カロリーに対して間食が占める割合をみると、日本人は8%で、これも欧米諸国と比べて最も小さい値でした(文献5、6、8)。

間食の割合の図

間食ではしばしば、お菓子や甘い飲み物など、ビタミンやミネラル類が少ない一方でカロリーは高めな食品が選ばれます。そのため間食は、三食に比べて栄養学的な質が低くなりがちです。その結果として、間食の回数が少ない人ほど1日全体の食事の質が高くなる傾向にあります(文献11、12)。その意味で、日本人の間食に関する習慣は欧米に比べてかなりよいといえます。

5. 日本人の食事のタイミングは決まっている

日本人の食生活の特徴についていろいろと見てきましたが、最後に食べるタイミングについて考えてみましょう。日本全国4000人以上を対象として、食べたものの内容だけでなく食べた時刻も詳しく調べたところ、こんな興味深いことが分かりました(文献4)。

・朝食の大部分(85%)は6~8時台
・昼食の大部分(94%)は11~13時台
・夕食の大部分(85%)は18~20時台

すなわち、日本人が食事をとるタイミングには明確なパターンがあるのです。(ちなみに間食のピークは10時台と15時台です。)三食のタイミングに明確なピークが存在するという傾向は、スペイン、イタリア、フランスといった地中海沿岸諸国においても観察されています(文献13)。

食事のタイミングが健康状態や慢性疾患予防にどの程度関係しているのかは、まだほとんど調べられていません。でも、三食の時間が決まっていることが、健康的な食事として世界的に有名な地中海食の特徴のひとつであることを考えると、わたしたちの健康を大きく左右する要因である可能性があります(文献5)。想像に過ぎませんが、日本人の健康長寿の秘密は、意外とこんなところに隠されているのかもしれません。

結論日本食の良さは規則正しさにあるのかもしれない

この記事では、日本人の食事の特徴を明らかにするために、科学的根拠をもとにして海外の人たちの食事と比べてみました。分かったことは以下のとおりです。

1. 日本人の食事の栄養学的な質はすばらしいとはいえない
2. 日本人は三食をきちんと食べる
3. 日本人は朝食をしっかり食べる
4. 日本人の間食は控えめ
5. 日本人の食事の時間は決まっている

よって、ぼくの結論はこうなります。「日本食の良さは、その栄養学的内容にあるというよりもむしろその規則正しさにあるのかもしれません。」科学者としてぼくは「日本食の栄養バランスはすばらしい!」「和食は世界に誇れる健康食だ!」とは口が裂けても言えそうにありません

以上、現役の人間栄養学者・村上健太郎が『日本食はどこが優れているのか?:世界との比較から読み解く日本食の5つの特徴』についてお届けしました。最後まで読んでくださりどうもありがとうございました。もっと栄養疫学を知りたい方は、ぜひ下の引用文献を辿っていってその奥深さを体験してください。

文献(PubMedへのリンクあり)

  1. Micha R, Khatibzadeh S, Shi P, et al. Global, regional, and national consumption levels of dietary fats and oils in 1990 and 2010: a systematic analysis including 266 country-specific nutrition surveys. BMJ 2014;348:g2272.
  2. Powles J, Fahimi S, Micha R, et al. Global, regional and national sodium intakes in 1990 and 2010: a systematic analysis of 24 h urinary sodium excretion and dietary surveys worldwide. BMJ Open 2013;3:e003733.
  3. Micha R, Khatibzadeh S, Shi P, et al. Global, regional and national consumption of major food groups in 1990 and 2010: a systematic analysis including 266 country-specific nutrition surveys worldwide. BMJ Open 2015;5:e008705.
  4. Murakami K, Livingstone MBE, Masayasu S, et al. Eating patterns in a nationwide sample of Japanese aged 1-79 y from MINNADE study: eating frequency, clock time for eating, time spent on eating, and variability of eating patterns. Public Health Nutr 2021 Mar 5:1-29. doi: 10.1017/S1368980021000975. Epub ahead of print.
  5. Huseinovic E, Winkvist A, Slimani N, et al. Meal patterns across ten European countries – results from the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition (EPIC) calibration study. Public Health Nutr 2016;19:2769-80.
  6. Kant AK. Eating patterns of US adults: Meals, snacks, and time of eating. Physiol Behav 2018;193:270-8.
  7. Leech RM, Livingstone KM, Worsley A, et al. Meal frequency but not snack frequency is associated with micronutrient intakes and overall diet quality in Australian men and women. J Nutr 2016;146:2027-34.
  8. Murakami K, Livingstone MBE, Sasaki S. Meal-specific dietary patterns and their contribution to overall dietary patterns in the Japanese context: findings from the 2012 National Health and Nutrition Survey, Japan. Nutrition 2019;59:108-15.
  9. Wang W, Grech A, Gemming L, et al. Breakfast size is associated with daily energy intake and diet quality. Nutrition 2020;75-76:110764.
  10. Murakami K, Livingstone MBE, Fujiwara A, et al. Breakfast in Japan: findings from the 2012 National Health and Nutrition Survey. Nutrients 2018;10:1551.
  11. Murakami K, Shinozaki N, Livingstone MBE, et al. Characterisation of breakfast, lunch, dinner and snacks in the Japanese context: an exploratory cross-sectional analysis. Public Health Nutr 2020 Nov 10:1-13. doi: 10.1017/S1368980020004310. Epub ahead of print.
  12. Murakami K, Shinozaki N, Livingstone MBE, et al. Meal and snack frequency in relation to diet quality in Japanese adults: a cross-sectional study using different definitions of meals and snacks. Br J Nutr 2020;124:1219-28. 
  13. Huseinovic E, Winkvist A, Freisling H, et al. Timing of eating across ten European countries – results from the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition (EPIC) calibration study. Public Health Nutr 2019;22:324-35.

この記事を書いた人
村上 健太郎

東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻 助教。博士(食品栄養科学)。専門は人間栄養学、栄養疫学。特に好きな食べものはくり、ぶどう、かためのパン、柿。趣味は読書、絵画鑑賞、ジョギング(フルマラソンのベストタイムは3時間57分40秒)

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