ヴィーガンとベジタリアン② 地球環境への影響は?

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本記事は、栄養疫学分野の一研究者が興味を持ったテーマについて、学術論文をベースに自身の見解も交えて分かりやすく紹介することを目的としています。正確な情報発信を心がけていますが、栄養疫学はとても奥が深く、ひとりの研究者では全容を理解することが難しい側面があります。執筆者の知識不足や誤解から生じる誤りもあるかもしれません。したがって、本記事の内容だけをもとにして結論を急いだり、すぐに食べ方を変えたりすることはお勧めしません。

今回は、前半に引き続きベジタリアンダイエットについて考えていきます。前半ではベジタリアンダイエットの特徴とメリット・デメリットをまとめてありますので、詳しくは以下の記事をご覧ください。

ヴィーガンとベジタリアン① 栄養疫学論文から読み解く特徴と健康面のメリット・デメリット
「脂身の多い牛肉や豚肉の食べすぎは体に良くない一方、野菜を中心とした植物性食品は体に良い」と言われれば「なるほどそうだよなぁ」と思いますよね? こんなかんじで何となくの思いつきでそれらしいことが言えてしまうのが、食や栄養の情報が氾濫する理由のひとつでしょうし、...

後半では、ベジタリアンダイエット研究の特徴と問題点を考察したうえで、日本人にとってのベジタリアンダイエットを、地球環境への影響も踏まえて考えていきます

ぼくなりの結論を先にお伝えします。「日本人におけるベジタリアンダイエットの意義や意味はほとんど明らかになっていません。よって、日本人にとってベジタリアンダイエットがよいかどうかは簡単に答えが出せる問題ではなさそうです。ただ、肉を食べることが地球環境に与える影響を考えると、ベジタリアンになることを選択せざるをえないような状況が将来的には来るのかもしれません。」

それでは、このような結論に至った科学的根拠を順番に見ていきましょう。

1. ベジタリアンダイエット研究の特徴

ベジタリアンダイエットの栄養疫学研究は大きく二つに分類できます。

1)多数のベジタリアンを含むのを意図していない研究

ひとつは、多数のベジタリアンが含まれるのを意図していない研究です。つまりこれは、いわゆる普通の集団を対象とした研究ですね。普通の集団を対象としているので、研究の参加者は「普通の人々の集まり」といえます。このことを少し難しくいうと「対象集団の代表性が高い」となります。これは研究においてはとても大事なことです。なぜなら、そのような集団で明らかになったことであれば「調査に参加していない人においても同じようなことが起こる可能性が高い」と考えられるからです。このようなことを「結果の一般化可能性が高い」といいます。これら「対象集団の代表性が高い」「結果の一般化可能性が高い」は研究の長所と考えられます。

その一方でこの種の研究の短所として、集められるベジタリアンの数は少なくなります。これは単純に、一般集団におけるベジタリアンの割合は近年増加しているものの、依然としてとても小さいからです。たとえば2016年に実施されたアメリカの調査でベジタリアンだと答えた人は3.4%でした(文献1)。 

しかもこれはすべてのタイプのベジタリアンを合計した数字です。よって、普通の集団から対象者を集めると、その中にはわずかな人数のベジタリアンしか含まれないことになり、意味のある解析をするためには大規模な調査が必要となります。

このような研究の例としては、アメリカの全国食事調査のデータを用いた研究があります(文献2)。

2)多数のベジタリアンを含むのを意図した研究

もうひとつのタイプの研究は、多数のベジタリアンを含むのを意図した研究です。そのため、研究目的を達成するために十分な数のベジタリアンを(ベジタリアンの種類で分類できるくらいに)集めることができます。これがこの種の研究の長所となります。

しかしながら、先ほど述べたようにベジタリアンの人口割合は小さいため、意図的にベジタリアンを多く含めることによって「対象集団の代表性」と「結果の一般化可能性」は低くなります。これがそのままこの種の研究の短所となります。

ベジタリアンダイエットに関する前向きコホート研究はほとんどすべてがこのタイプの研究にあたります。ベジタリアンの人数が十分でなければどんな解析も意味をなさないからです。

たいていの食品や栄養素は、普通の集団においても摂取量にかなりのばらつきがあるものです。そのため「〇〇を食べている人を意図的にたくさん集めよう」としなくても、いわゆる普通の集団で研究することが可能な場合が多いです。ところがベジタリアンダイエットの場合にはそうはいかないため、いわゆる普通の栄養疫学研究とは違う難しさがあるといえます。

2. ベジタリアンダイエット研究の問題点

以上をまとめると、ベジタリアンダイエットの栄養疫学研究はこのようになります。

タイプ①タイプ②
ベジタリアンを積極的に含める意図なしあり
対象集団の代表性高い低い
ベジタリアンの人数少ない多い
結果の一般化可能性高い低い
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このようなベジタリアンダイエット研究の特徴はそのまま、ベジタリアンダイエット研究の問題点となります。すなわち、①のような、ベジタリアンがそもそも少ない研究では、ベジタリアンダイエットの詳細を明らかにすることが困難となります。ベジタリアンダイエットについて得られる知見があまり多くないということですね。たとえばアメリカの全国食事調査を用いた解析ではすべてのタイプのベジタリアンを統合しても全体の数%にしかならないため、ビーガン(あらゆる動物性食品を食べない人。ヴィーガンともいう)、ラクト・オボ・ベジタリアン(乳製品と卵は食べる人)、ペスコ・ベジタリアン(魚も食べる人)などに分類したうえで詳細な解析をすることができません(文献2)。

もうひとつの②のような、ベジタリアンをたくさん含む研究では、ベジタリアンダイエットの詳細を明らかにすることができます。でも②のような研究から得られる結果は、かなり特殊な集団で観察されたものといえます。どのくらい特殊なのか、そしてその結果としてどのような問題があるのかについて、二つの代表的なベジタリアン研究をもとに説明していきましょう。

1)ベジタリアンダイエットの健康効果を低く見積もっている可能性

EPIC Oxford研究は、ベジタリアンダイエットと健康との関連を明らかにすることを目的としたイギリスの前向きコホート研究です(文献3)。対象者のリクルートは全英ベジタリアン協会と全英ビーガン協会を中心に行なわれています。その結果、全体の5割がベジタリアンであるコホートになっています。

何年にもわたって追跡調査が行なわれる前向きコホート研究に協力してくれるような人たちは、一般集団に比べて健康意識が高く、そのため実際に健康的であるのが普通です。ですがEPIC Oxford研究の対象者の場合は、ノン・ベジタリアンも含めて、さらに健康的であるようなのです。実際、イギリスの全国民と比べてEPIC Oxford研究の対象者の死亡率は、ベジタリアンだけでなくノン・ベジタリアンでもかなり低いものでした(標準化死亡比は両グループとも52%)(文献4)。

このことがどのような問題を引き起こすのかを考えていきましょう。

当たり前ですが、EPIC Oxford研究におけるベジタリアンダイエットの健康効果は、EPIC Oxford研究におけるノン・ベジタリアンダイエットとの比較でなされます。死亡率の低さを考えると、EPIC Oxford研究におけるノン・ベジタリアンダイエットは比較的健康的であるはずです。少なくともイギリスの一般集団で観察されるノン・ベジタリアンダイエットよりも健康的でしょう。本来明らかにしたいものは「一般的なノン・ベジタリアンダイエットと比較したときのベジタリアンダイエットの健康効果」なのですが、EPIC Oxford研究から得られる知見はどれも「健康的なノン・ベジタリアンダイエットと比較したときのベジタリアンダイエットの健康効果」という、より控えめなものとなっている可能性があります。簡単にいうと「EPIC Oxford研究は、ベジタリアンダイエットの健康効果を低く見積もっているだろう」ということです。

2)宗教や信念など食事以外の因子の影響が大きい可能性がある

セブンスデー・アドベンチスト研究は、北米のセブンスデー・アドベンチスト協会の信者を対象とした前向きコホート研究です(文献5)。教会はベジタリアンダイエットを推奨しているのでベジタリアンが多いです。また教会は非喫煙と非飲酒も推奨しているので、喫煙者と飲酒者はきわめて少ないです。ただし、ノン・ベジタリアンの食事の内容は一般集団と比較的近いようで、極端に健康的であるというようなことはなさそうです。

そのため、セブンスデー・アドベンチスト研究から得られる知見は「一般的なノン・ベジタリアンダイエットと比較したときのベジタリアンダイエットの健康効果」という、本来明らかにしたいものに比較的近いものとなっているかもしれません。簡単にいうと「セブンデー・アドベンチスト研究は、ベジタリアンダイエットの健康効果を比較的正確に見積もっているだろう」ということです。

でも、「セブンスデー・アドベンチストで起こることがセブンデー・アドベンチストでない人たちでも同じように起こる」と考えるのは短絡的すぎるでしょう。なぜなら、宗教や信念など測定するのが難しい特性が健康に与える影響を明らかにするのは一般的にとても難しいからです。

いずれにしてもベジタリアンダイエット研究は必然的にかなり特殊な集団で行なわれることになるので、得られた結果をどのくらい一般化することができるのかは未知数であるといえます。

3)アジア人を対象としたベジタリアンダイエット研究はほとんどない

さらに、両方の研究の対象者の大部分は白人です。白人集団で観察された結果が、生活習慣も遺伝要因も異なるアジア人(および日本人)でも同じように観察されるだろうと考えるべき強い理由は必ずしもありません。たとえば欧米では一般的に、肉の摂取は不健康な食習慣と関係していますが、アジア諸国では必ずしもそうではないという指摘もあります(文献6)。また、アジア人におけるベジタリアンダイエットとノン・ベジタリアンダイエットの内容の違いは白人におけるそれに比べて小さいという知見もあります(文献7)。

このように、ベジタリアンダイエットに関する科学的知見は欧米の限られた集団で得られたものであるので、結果の解釈には注意が必要です。また、アジア人を対象としたベジタリアンダイエットの研究はほとんどないので、アジア人におけるベジタリアンダイエットの健康効果はほとんどわかっていないと考えたほうがよさそうです。

3. 地球環境とベジタリアンダイエット

ここで視点を変えて、ベジタリアンダイエットがわたしたち人間ではなく地球にとってどのくらいメリットがあるのか考えてみましょう。

温室効果ガスの排出量の増大は地球温暖化の主要な要因です。食料の生産から消費・廃棄までの全工程で排出される温室効果ガスの量は全体の3割ほどを占めると考えられています。そのため、食事由来の温室効果ガス排出量を見積もった研究が近年たくさん発表されてきています。

EPIC Oxford研究とセブンスデー・アドベンチスト研究からもそうした内容の論文が発表されています(文献8、9)。例としてEPIC Oxford研究(約55000人)の結果を下に示します。温室効果ガス排出量は肉の摂取が多いほど大きい一方でビーガンダイエットで最も小さく、それ以外のベジタリアンダイエットはその間にある、というふうになっています(文献8)。

食事由来の温室効果ガス排出量の比較の図

上の図の値は、エネルギ-2000kcalあたりの食事由来の温室効果ガス排出量の平均値です。ただし「ノン・ベジタリアン(肉100g/日以上)」のグループの値を100としています。

動物を食料にするまでにはたくさんの資源が必要なので、動物性食品(特に赤身肉)の摂取を減らすのが食事由来の温室効果ガス排出量を削減するのに最も有効な方法であることは多くの研究で明らかになっています(文献10)。よって、地球のことを考えるなら人類みんながベジタリアンダイエット(というかビーガンダイエット)にしたほうがよいのは自明です。昆虫を食料とする可能性などもあるのかもしれませんが、今回はそこまで調べる余裕はありませんでした。

4. 日本人にとってのベジタリアンダイエット

最後に、日本人におけるベジタリアンダイエットを考えてみましょう。

下の表は、ぞれぞれの動物性食品がそれぞれの栄養素摂取にどのくらい寄与しているのかを示したものです。データは国民健康・栄養調査における平均摂取量を用いています(文献11)。動物性食品の寄与率の合計が多い順に並べていますが、動物性食品の寄与率が25%を超える栄養素がたくさんあることが分かります。魚介類の摂取が比較的多い日本人にとっては魚介類の寄与がかなり大きいようですね。

魚介類 肉類 卵 乳製品 合計
ビタミンB-1269.812.76.36.395.2
ビタミンD78.32.910.12.994.2
コレステロール16.820.552.14.093.4
飽和脂肪酸6.334.16.314.861.4
ナイアシン20.526.74.23.655.0
たんぱく質17.723.37.56.054.5
ビタミンB-210.213.614.414.452.5
一価不飽和脂肪酸7.533.26.64.952.2
脂質8.527.46.97.250.0
ビタミンB-17.633.73.34.348.9
n-3系脂肪酸40.04.04.00.048.0
リン8.114.67.512.042.3
パントテン酸7.315.510.19.141.9
亜鉛6.023.86.06.041.7
ビタミンB-615.119.32.52.539.5
カルシウム2.41.14.327.435.2
ビタミンA4.412.011.27.234.8
カリウム7.79.92.36.826.7
5.110.110.11.326.6
値は全摂取量に占める割合(%)。文献11をもとに作成

とても大雑把な言い方になりますが、ベジタリアンになるということは、これら動物性食品からとっている栄養素をすべて植物性食品からとることを決意することにほかなりませんベジタリアンになるかどうかは誰にとっても、人生を大きく左右する重要な決断となるでしょう。ベジタリアンダイエットに関して「こうしたらいい」というような意見はぼくにはありません。ベジタリアンになったほうがよいとか、逆にベジタリアンにならないほうがよいとか、簡単に答えが出せることではないと思います。一人一人がいろいろなことを考えて自分なりに答えを出すべき問題だと思います。

ただ、動物性食品を食べることが地球に与える影響の大きさを考えると、ベジタリアンになるというのは近い将来には選択の余地のないことなのかもしれません。その可能性は常に頭に入れておいたほうがよいと思います。

地球環境保護

まとめ

ベジタリアンダイエット研究の特徴と問題点を考察したうえで、日本人にとってのベジタリアンダイエットを、地球環境への影響も踏まえて考えてきましたが、ぼくなりの結論はこのようになります。「ベジタリアンダイエットに関する科学的知見は欧米の限られた集団で得られたものであるので、日本人におけるベジタリアンダイエットの意義や意味はほとんど明らかになっていません。日本人の栄養素摂取における動物性食品、特に魚介類の寄与を考えると、ベジタリアンになったほうがよいかどうかは簡単に答えが出せる問題ではなさそうです。ただし、肉を食べることが地球環境に与える影響を考えると、ベジタリアンになることを選択せざるをえないような状況が将来的には来るのかもしれません。」

以上、現役の人間栄養学者・村上健太郎が『ヴィーガンとベジタリアン② 地球環境への影響は?』についてお届けしました。最後まで読んでくださりどうもありがとうございました。もっと栄養疫学を知りたい方は、ぜひ下の引用文献を辿っていってその奥深さを体験してください。

文献(PubMed等へのリンクあり)

  1. The Vegetarian Resource Group. How many adults in the US are vegetarian and vegan? How many adults eat vegetarian and vegan meals when eating out? http://www.vrg.org/nutshell/Polls/2016_adults_veg.htm (accessed May 2021).
  2. Farmer B, Larson BT, Fulgoni VL 3rd, et al. A vegetarian dietary pattern as a nutrient-dense approach to weight management: an analysis of the national health and nutrition examination survey 1999-2004. J Am Diet Assoc 2011;111:819-27.
  3. Davey GK, Spencer EA, Appleby PN, et al. EPIC-Oxford: lifestyle characteristics and nutrient intakes in a cohort of 33 883 meat-eaters and 31 546 non meat-eaters in the UK. Public Health Nutr 2003;6:259-69.
  4. Key TJ, Appleby PN, Spencer EA, et al. Mortality in British vegetarians: results from the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition (EPIC-Oxford). Am J Clin Nutr 2009;89:1613S-9S.
  5. Butler TL, Fraser GE, Beeson WL, et al. Cohort profile: The Adventist Health Study-2 (AHS-2). Int J Epidemiol 2008;37:260-5.
  6. Orlich MJ, Chiu THT, Dhillon PK, et al. Vegetarian epidemiology: review and discussion of findings from geographically diverse cohorts. Adv Nutr 2019;10:S284-95.
  7. Tong TY, Key TJ, Sobiecki JG, et al. Anthropometric and physiologic characteristics in white and British Indian vegetarians and nonvegetarians in the UK Biobank. Am J Clin Nutr 2018;107:909-20.
  8. Scarborough P, Appleby PN, Mizdrak A, et al. Dietary greenhouse gas emissions of meat-eaters, fish-eaters, vegetarians and vegans in the UK. Clim Change 2014;125:179-92.
  9. Soret S, Mejia A, Batech M, et al. Climate change mitigation and health effects of varied dietary patterns in real-life settings throughout North America. Am J Clin Nutr 2014;100:490S-5S.
  10. Berners-Lee M, Hoolohan C, Cammack H, et al. The relative greenhouse gas impacts of realistic dietary choices. Energy Policy 2012;43:184-90.
  11. Ministry of Health, Labour and Welfare, Japan. The National Health and Nutrition Survey in Japan, 2019. https://www.mhlw.go.jp/content/000710991.pdf (accessed May 2021).

この記事を書いた人
村上 健太郎

東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻 助教。博士(食品栄養科学)。専門は人間栄養学、栄養疫学。特に好きな食べものはくり、ぶどう、かためのパン。趣味は読書、絵画鑑賞、ジョギング(フルマラソンのベストタイムは3時間57分40秒)

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