本記事は、栄養疫学分野の一研究者が興味を持ったテーマについて、学術論文をベースに自身の見解も交えて分かりやすく紹介することを目的としています。正確な情報発信を心がけていますが、栄養疫学はとても奥が深く、ひとりの研究者では全容を理解することが難しい側面があります。執筆者の知識不足や誤解から生じる誤りもあるかもしれません。したがって、本記事の内容だけをもとにして結論を急いだり、すぐに食べ方を変えたりすることはお勧めしません。
ぼくは学生のときにラグビーをやっていて、ベンチプレスやスクワットなどの筋力トレーニングもかなりやっていました(筋肉の量も多かったので、現在の体重はその頃よりも10キロ軽いです)。当時はプロテインのことをあまり意識していなくて、とったりとらなかったりだった気がします。でも、もっととったほうがよかったのでしょうか? プロテインをしっかりとっていたらぼくはさらに活躍できていたのでしょうか? また、現在ぼくは特にトレーニングをしていませんが、プロテインをとったほうがよいのでしょうか?
というわけで今回は、プロテインのサプリメントについて栄養疫学論文をもとに考えてみました。ぼくなりの結論は以下のとおりです。「プロテインは筋力トレーニングの効果を増大させるけれども、その効果は筋力トレーニングそのものの効果よりもはるかに小さいです。また、多くの日本人は十分な量のたんぱく質をとっているようです。よって、特殊な食習慣をもっている人や食の細い高齢者など、たんぱく質摂取量が極端に少ない可能性がある人々を除いて、プロテインのサプリメントは不要と考えてもよさそうです。」
このような結論に至った科学的根拠を見ていきましょう。
プロテインとは
英語のproteinという単語はたんぱく質のことを指すので、本来は「プロテイン=たんぱく質」です。でも日本では、たんぱく質のサプリメントのことをプロテインと呼ぶのが一般的なようです。よってこの記事では、以下のようにプロテインとたんぱく質という単語を使い分けます。
プロテイン = サプリメントとしてとるたんぱく質
たんぱく質 = 食事からとるたんぱく質
目次
1. プロテインは筋力トレーニングの効果を増大させる
プロテインは筋力トレーニングをする人にとって欠かせないのでしょうか? 言い換えると、プロテインは筋力トレーニングの効果を増大させるのでしょうか? まさしくこの疑問を調べたメタアナリシスがあります(文献1)。
このメタアナリシスに含まれたのは、49のランダム化比較試験です。週2回以上の筋力トレーニングを6週間以上にわたって実施してもらい、一方のグループにだけプロテインをとってもらった研究をもとにしています。合計の対象者数は1863人で、平均年齢は35歳(標準偏差:20)でした。筋力トレーニングの内容は下の表のとおりです。
平均値 | 標準偏差 | 最小 | 最大 | |
期間(週) | 13 | 8 | 6 | 52 |
頻度(日/週) | 3 | 1 | 2 | 5 |
種目数(/セッション) | 7 | 3 | 1 | 14 |
セット数(/種目) | 4 | 2 | 1 | 12 |
反復数(/セット) | 9 | 4 | 3 | 25 |
プロテインのサプリメントの量の平均値は36g/日(標準偏差:30)でした。ほとんどの研究(49のうち40)において、プロテインの一部またすべてがトレーニング後に摂取されています。もっともよく使用されていたのはホエイプロテイン(23研究)で、それ以外にはカゼインプロテイン(3研究)、ソイプロテイン(6研究)、ピープロテイン(1研究)、ミルクプロテイン(10研究)が使用されていました。13の研究では複数のプロテインが用いられ、7つの研究では食品(牛肉、ヨーグルト、プロテインバーなど)が用いられていました。
プロテインのサプリメントをとってもらったグループのたんぱく質摂取量は、体重1kgあたり、1日あたり1.4gから1.8gに増えました。一方、プロテインのサプリメントをとってもらわなかったグループは増えませんでした(1.4 → 1.3g)。
それでは結果を見てみましょう。プロテインのサプリメントがありの場合は、なしの場合に比べて1RM(1回できる最大の負荷)が2.5kg大きくなっていました。また除脂肪体重が0.3kg大きくなっていました。この効果は、以前から筋力トレーニングをしている人や若い人ほど大きい、という結果でした。いずれにしても「プロテインは筋力トレーニングの効果を増大させる」といえそうです。
2. 筋力トレーニングのほうがプロテインよりずっと大切
このメタアナリシスで明らかになったのはこれだけではありません。プロテインをとるかとらないかに関係なく、筋力トレーニングによって増大した1RMは平均27kgでした。これはプロテインによって増大した分である2.5kgよりはるかに大きいです。著者たちはこれを受けて「筋力トレーニングなどのレジスタンス運動を実践することは、プロテインのサプリメントよりもはるかに強力な筋力増強の刺激となる」と述べています(文献1)。
また、筋力トレーニングによって増大した除脂肪体重、すなわち脂肪以外の筋肉や骨・内臓などの総重量は平均1.1kgでした。このうちの3割弱(0.3kg)がプロテインのサプリメントに起因すると考えられます。この0.3kgという数字は決して小さくはないでしょうが、プロテインをとれば自動的に0.3kgの除脂肪体重が増えると考えるのは短絡的でしょう。実際、健康な高齢者(平均68歳)を対象としてプロテインのサプリメントのみ(運動はなし)の効果を調べたランダム化比較試験のメタアナリシスでは、除脂肪体重の増加は観察されませんでした(文献2)。いずれにしても、筋力の増強にも除脂肪体重の増加にも筋力トレーニング自体のほうがプロテインのサプリメントよりもより大きな効果があると考えるべきでしょう。プロテインはやはりサプリメント(助けてくれるもの)に過ぎないのです。
3. プロテインをとるのに適切なタイミングは明らかでない
「プロテインが筋力トレーニングの効果を高めてくれる」のは分かりました。では、プロテインをとるのに適切なタイミングはあるのでしょうか? プロテインをとるタイミングの影響を調べたランダム化比較試験(合計対象者数910人)をまとめたメタアナリシスがあります(文献3)。プロテインをとるタイミングを「トレーニング後」「トレーニング前と後」「それ以外のタイミング」の三つに分けてみたところ、どのタイミングであっても除脂肪体重の増加が観察され、その増加量に統計学的に有意な差はありませんでした。「プロテインをいつとるかよりも十分な量のプロテインをとるかどうかのほうが重要である」という結論は別のメタアナリシスでも得られています(文献4)。
上の図の値は、プロテインのサプリメントをとらないグループの平均値との差と95%信頼区間です。
研究の数が少ないですし、プロテインをとるタイミングの違いによる影響を同一の研究の中で比較した研究は存在しないという限界はありますが、現時点では「プロテインをとるタイミングを気にする必要性を積極的に支持する科学的根拠はない」といえそうです。
4. 多くの日本人は十分な量のたんぱく質をとっている
筋力トレーニングの効果を増大させるのにプロテインは有効であるようですが、筋力トレーニングを特にしていない人もプロテインのサプリメントをとったほうがよいのでしょうか? たんぱく質摂取量を詳しく調べた研究によると、20〜60歳代の日本人392人においてたんぱく質の摂取量が不適切(足りない)と判定された人の割合は1.5%でした(文献5)。この研究は小規模なものですが、たんぱく質摂取量の平均値(72g/日)は、より一般的な集団を調べている国民健康・栄養調査で得られている値と大差はありません(文献6)。よって「多くの日本人は十分な量のたんぱく質をとっている」といえそうです。
以上より、特殊な食習慣をもっている人(ある特定の食品群を全く摂取しないなど)や食の細い高齢者など、たんぱく質摂取量が極端に少ない可能性がある人々を除いて、プロテインのサプリメントは不要と考えてもよいとぼくは思います。
5. とればとるだけよいと考えるのは幻想
たんぱく質に限った話ではありませんが「とればとるだけよい」と考えるのは簡単です。そう考えたくなる気持ちはよく分かります。でも、たぶん幻想です。
たとえば前向きコホート研究のメタアナリシスによると、総たんぱく質および植物性たんぱく質の摂取量は総死亡のリスクとの間に負の関連を示しましたが、その関連は直線ではありませんでした(文献7)。総たんぱく質では総エネルギーの14~20%くらい、植物性たんぱく質では総エネルギーの5~10%くらいが、死亡のリスクが低めになる範囲のようです。それ以上に摂取しても、リスクは下がらないようです。すなわち、たんぱく質摂取量には適正範囲があるのです。
また最初にご紹介したメタアナリシスでも「食事も含めたたんぱく質摂取量が体重1kgあたり、1日あたり1.6g以上になるようなプロテインのサプリメントをとっても効果は増大しない」ということが明らかになっています(文献1)。食や栄養においてはこのように「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ということわざがぴったりなことが多いように思います。このことは良質なたんぱく質源である卵についてもいえるようです。卵の健康効果については以下の記事にまとめてあるので、こちらもぜひご覧ください。
まとめ
栄養疫学論文をもとにプロテインのサプリメントについて考えてみて、ぼくなりにたどり着いた結論はこうです。「プロテインは筋力トレーニングの効果を増大させるけれども、その効果は筋力トレーニングそのものの効果よりもはるかに小さいです。また、多くの日本人は十分な量のたんぱく質をとっているようです。よって、特殊な食習慣をもっている人や食の細い高齢者など、たんぱく質摂取量が極端に少ない可能性がある人々を除いて、プロテインのサプリメントは不要と考えてもよさそうです。」学生時代にせっせとプロテインをとっていたとしても、ラグビー選手としてのぼくのパフォーマンスはそれほど変わりなかったと思われます。当たり前ですが、プロテインは魔法の粉ではないということを忘れずにいたいものです。
以上、現役の人間栄養学者・村上健太郎が『プロテインのサプリメントはとったほうがよい? 人間栄養学者が栄養疫学論文に基づいて考えてみました』についてお届けしました。最後まで読んでくださりどうもありがとうございました。もっと栄養疫学を知りたい方は、ぜひ下の引用文献を辿っていってその奥深さを体験してください。
文献(PubMed等へのリンクあり)
- Morton RW, Murphy KT, McKellar SR, Schoenfeld BJ, Henselmans M, Helms E, Aragon AA, Devries MC, Banfield L, Krieger JW, Phillips SM. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. Br J Sports Med 2018;52:376-84.
- Ten Haaf DSM, Nuijten MAH, Maessen MFH, Horstman AMH, Eijsvogels TMH, Hopman MTE. Effects of protein supplementation on lean body mass, muscle strength, and physical performance in nonfrail community-dwelling older adults: a systematic review and meta-analysis. Am J Clin Nutr 2018;108:1043-59.
- Wirth J, Hillesheim E, Brennan L. The role of protein intake and its timing on body composition and muscle function in healthy adults: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J Nutr 2020;150:1443-60.
- Schoenfeld BJ, Aragon AA, Krieger JW. The effect of protein timing on muscle strength and hypertrophy: a meta-analysis. J Int Soc Sports Nutr 2013;10:53.
- Sugimoto M, Murakami K, Fujiwara A, Asakura K, Masayasu S, Sasaki S. Association between diet-related greenhouse gas emissions and nutrient intake adequacy among Japanese adults. PLoS One 2020;15:e0240803.
- Ministry of Health, Labour and Welfare, Japan. The National Health and Nutrition Survey in Japan, 2019. https://www.mhlw.go.jp/content/000710991.pdf (accessed July 2021).
- Naghshi S, Sadeghi O, Willett WC, Esmaillzadeh A. Dietary intake of total, animal, and plant proteins and risk of all cause, cardiovascular, and cancer mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. BMJ 2020;370:m2412.
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