卵は体に良いの?悪いの? 人間栄養学者が栄養疫学論文に基づいて考えてみました

卵料理 食品と健康

本記事は、栄養疫学分野の一研究者が興味を持ったテーマについて、学術論文をベースに自身の見解も交えて分かりやすく紹介することを目的としています。正確な情報発信を心がけていますが、栄養疫学はとても奥が深く、ひとりの研究者では全容を理解することが難しい側面があります。執筆者の知識不足や誤解から生じる誤りもあるかもしれません。したがって、本記事の内容だけをもとにして結論を急いだり、すぐに食べ方を変えたりすることはお勧めしません。

知っていますか? いま栄養疫学では卵が熱いんです。卵の健康影響、特に卵と循環器疾患との関連についての論文がものすごい勢いで発表されているのです。

卵は栄養豊富な食品です。良質なたんぱく質源であるだけでなく、カリウムや鉄、ビタミンAやビタミンDをはじめとした重要な微量栄養素も豊富に含みます。和洋中を問わず幅広い料理に合いますし、しかも安いです。一方で卵の黄身には大量のコレステロールが含まれており、これが血中コレステロールを上昇させるのではないかと懸念されています。このように卵は、健康そうな食品でもあり不健康そうな食品でもあるのです。

そこで、卵についての科学的根拠(エビデンス)をまとめました。ぼくなりの結論はこうです。「卵については決定的なことが言えるほど科学的根拠が蓄積していません。日常的に大量の卵(たとえば1日に2個以上)を食べているのでなければ、食習慣を変えてまで卵の食べ方を変える必要はないでしょう。」

このように考えるに至った5つの科学的根拠を順番に説明します。

1. 卵は食べないほうがよい:アメリカの観察研究

まずは2021年2月に発表された、約52万人のアメリカ人を対象とした前向きコホート研究を見ていきましょう(文献1)。卵の習慣的な摂取量を調べたうえでその後16年間追跡し、循環器疾患による死亡を記録しました。結果は下に示すとおりで、卵の摂取量が最も多い人たち(平均値35g/日)は、最も少ない人たち(平均値0.1g/日)に比べて循環器疾患によって死亡するリスクが15%高くなっていました。ちなみに卵1個は50gくらいですので、35g/日は週5個程度です。

アメリカ人における卵と循環器疾患との関連の図

上の図の値は調整済みハザード比と95%信頼区間で、交絡因子として扱われているのは以下のとおりです。
年齢、性別、肥満度(BMI)、人種・民族、教育歴、婚姻状態、世帯収入、喫煙、飲酒、激しい身体活動、仕事中の身体活動、ベースライン時の既往歴(高血圧、高血中コレステロール、心臓病、脳卒中、糖尿病、がん)、エネルギー摂取量、卵白・卵の代用品の摂取、各種摂取量(赤身肉、魚、鶏肉、乳製品、果物、野菜、いも、ナッツ・豆類、全粒穀物、精製穀物、コーヒー、砂糖入り飲料

同様の結果は他の複数の研究でも得られており、別のアメリカ人集団約3万人、イタリア人約2万人、そして中国人約10万人において、卵摂取量が多くなるほど循環器疾患のリスクが高くなってました(文献2-4)。メカニズムははっきりとは分かりませんが、卵摂取によりコレステロール摂取量が増えるせいだと考えられています(文献1、2)。

これらの結果だけを踏まえると、卵はなるべく食べないようにしたほうがよさそうです

2. 卵は週に7個食べるのがよい:中国の観察研究

けれどもじつは、全く異なる結果を示した研究もあるのです。たとえば2018年5月に発表された、約46万人の中国人を9年にわたって追跡した前向きコホート研究がそれにあたります(文献5)。結果は下のとおりで、卵を週に7個食べる人たちは、ほとんど食べない人たち(0個/週)に比べて循環器疾患を発症するリスクが11%低くなっていました

中国人における卵と循環器疾患との関連の図

上の図の値は調整済みハザード比と95%信頼区間で、交絡因子として扱われているのは以下のとおりです。
年齢、性別、教育歴、世帯収入、婚姻状態、飲酒、喫煙、身体活動、肥満度(BMI)、ウエスト・ヒップ比、高血圧、アスピリン使用、循環器疾患の家族歴、マルチビタミンサプリメントの使用、食事パターン

同様の関連、すなわち、卵摂取量が多いほどリスクが低くなるという負の関連はヨーロッパ10か国約40万人を対象とした研究でも観察されています(文献6)。卵の中のコレステロール以外の栄養素が働いているせいだと考えられていますが、詳細は分かりません(文献5)。

というわけで、これらの結果だけに基づくなら、卵は週に7個くらい食べたほうがよいのかもしれません

3. 卵は週に1〜6個食べるのがよい:メタアナリシス

よく分からなくなってきたところで(笑)、2020年4月までに世界中から発表された前向きコホート研究をまとめたメタアナリシスを見てみましょう(文献7)。健康な人たちの習慣的な卵摂取量を調べたうえで追跡し、循環器疾患の発症もしくは循環器疾患による死亡を調べた研究の数は17で、合計の対象者数は110万人を超えました。その結果が下の図です。卵を週に1〜6個食べる人たちは、卵を食べない人たち(0個/週)に比べて循環器疾患(発症もしくは死亡)のリスクが2〜5%低くなっていました

卵と循環器疾患との関連のメタアナリシスの図

上の図の値は相対危険(リスク比)と95%信頼区間です。

このメタアナリシスから結論を出すなら、卵は週に1〜6個くらい食べるのがよさそうですね。

でも、なにかおかしいと思いませんか? 最初に見た研究の結論は「卵は食べないほうがよさそう」、次に見た研究の結論は「卵は週に7個食べるのがよさそう」でした。そしてこのメタアナリシスでは「卵は週に1〜6個食べるのがよさそう」という、上記二つの結論を平均したようなものになってしまっています。メタアナリシスはその性質上、個々の研究成果の平均値を求めているに過ぎないので、個々の研究結果が今回のように大きく異なる場合には、結果の解釈に特に注意が必要なのです。実際、このメタアナリシスの著者は「決定的なことは言えない」と結論づけています。

ちなみにこのメタアナリシスは現時点で最新のものですが、冒頭で紹介した米国の研究(文献1)よりも先に発表されたものなので、この米国の研究を含んでいません。ただ、米国の研究を考慮に入れても「決定的なことは言えない」という結論に変わりはないと思われます。

4. こんなにも結果が異なるのはなぜ?

こんなにも研究によって結果が異なるのはなぜなのでしょうか? 主な理由を順番に見ていきましょう。

1) 卵摂取に関連する要因の違い

卵の摂取に関連する要因は研究によって異なります。たとえば欧米では一般的に、卵の摂取量が多い人は、果物や野菜、全粒穀物の摂取量が少ない一方で赤身肉や加工肉、精製穀物の摂取量が多いです(文献1、8)。言い換えると、欧米では卵は不健康な食生活と関連(ひいては不健康な生活習慣や不利な社会経済状態とも関連)しています(文献3、9)。

卵料理

これと対照的に中国や日本では、卵摂取量が多い人は野菜や果物の摂取量が多く、卵は健康的な食生活と関連(ひいては健康的な生活習慣や有利な社会経済状態とも関連)しているようです(文献10、11)。

また、欧米とアジアでは卵の調理法やいっしょに食べる食品が大きく異なる可能性があるという指摘もあります(文献7、8、10)。ただし卵の調理法まで詳しく尋ねている研究は存在しません。

卵料理

現実世界で生活する人々を対象とする研究(観察研究)においてはこのように、見つけ出そうとする関連(ここでは卵と循環器疾患との関連)を見えにくくする要因は無数に存在します。これらの要因のうちの多くは交絡因子として扱われますが、どれを交絡因子とするかは研究によって異なりますし、すべての要因のデータが常に存在するわけでもありません。見つけ出そうとする関連の強さが、それら無数の要因の影響をものともしないほどに強固なものであれば、特に苦労することなく一貫した結果が得られることになるので話は簡単なのですが、(卵のような)個々の食品にそのような強い効果はないのが普通です。

2) 因果の逆転

また観察研究では「因果の逆転」というものが起こりえます。因果の逆転とは、原因と結果の関係が逆になってしまうことです。

たとえば二つめに紹介した中国の研究では「卵の摂取量が多い人ほど循環器疾患のリスクが低い」、言い換えると「卵の摂取量が少ない人ほどリスクが高い」という結果でした(文献5)。でもこれは、血中コレステロール値が高いなどといった循環器疾患のリスクが高い人が、コレステロール含有量の多い卵を食べないようにしたために観察されただけかもしれません

医療機器

このような因果の逆転が起こると、原因と結果を逆にして解釈してしまうことになるので、注意が必要なのです。

3) 研究の対象や方法の違い

これ以外にも研究間で異なる結果を生み出す要因はあります。たとえば、集団特性の違い(性別、年齢、人種・民族、社会経済状態、そもそもの食事パターン)、測定法の違い(妥当性の確立した食物摂取頻度調査票 vs 簡易な質問、食事調査がベースラインのみ vs 食事調査を繰り返し行なっている)、研究の大きさの違いなどです。

以上のようなわけで、わたしたちは個々の研究の違いを受け入れつつ、結果を慎重に解釈していくしかないということになります。

5. 卵はLDLコレステロールを上げる

それでは、いま存在する研究成果をどのようにまとめるのが妥当でしょうか? 介入研究で明らかになっていることを見てみましょう。

卵が血中コレステロールに与える影響を調べたランダム化比較試験のメタアナリシスは一貫して、卵の摂取はLDLコレステロールの増加を引き起こすことを示しています(文献12-16)。たとえば13の研究(介入期間は3~12週間)をまとめたある論文は「1日あたり1~3個の卵摂取は卵を食べないかあるいは通常通り食べる場合に比べてLDLコレステロールを8.2mg/dL上昇させた」という結論を得ています(文献16)。血中LDLコレステロールが高いことは循環器疾患の危険因子なので(文献17)、卵をあまりにたくさん食べ続けるのは避けたほうがよさそうですね。

この結論は、今までに見てきた観察研究の結果、とくに二つめに紹介した「卵摂取量が多いほど循環器疾患のリスクが低い」という結果と反するでしょうか? 必ずしもそんなことはありません。その理由のひとつとして、すでに説明したように、観察研究では「因果の逆転」が起きているのかもしれないということがあります。もうひとつは「一般的な集団では日常的に大量の卵、たとえば1日1個よりも多いペースで卵を食べ続ける人はほとんどいない」ということがあります。実際、少しデータが古いですが1980年に日本人約9000人を調べたある調査では、1日に2個以上の卵を食べると回答した人は全体の2%でした(文献18)。よって、一般的な集団の日常的な食習慣を調べる観察研究においては、あまりに大量の卵を食べたときの健康影響を明らかにすることはできないといえます。

まとめ

卵が体に良いか悪いかについて、ぼくの結論はこうです。「卵のとりすぎはLDLコレステロールの上昇を引き起こすので、日常的に大量の卵、たとえば1日1個よりも多い量を食べ続けるのは避けたいです。一方で、通常の摂取量範囲の集団、すなわち全く食べない人から1日1個くらい食べる人を含む集団における健康影響は不明な点が多いです。よって、日常的に大量の卵を食べていない人であれば、より強固な科学的根拠が蓄積されるまでは今の食習慣を変えてまで卵の食べ方を変える必要はないでしょう。」

以上、現役の人間栄養学者・村上健太郎が『卵は体に良いの?悪いの? 人間栄養学者が栄養疫学論文に基づいて考えてみました』についてお届けしました。最後まで読んでくださりどうもありがとうございました。もっと栄養疫学を知りたい方は、ぜひ下の引用文献を辿っていってその奥深さを体験してください。

文献(PubMedへのリンクあり)

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この記事を書いた人
村上 健太郎

東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻 助教。博士(食品栄養科学)。専門は人間栄養学、栄養疫学。特に好きな食べものはくり、ぶどう、かためのパン、柿。趣味は読書、絵画鑑賞、ジョギング(フルマラソンのベストタイムは3時間57分40秒)

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